1. フランス
フランスでは、医薬品や医療機器の価格を交渉する際に、費用対効果の情報が活用されています。評価機関としては2006年に設立されたHAS(Haute Autorité de Santé、高等保健機構)があります。企業から提出された費用対効果の分析結果をレビューし、より適切で妥当と思われる分析結果を作成しています。
フランスで医薬品の価格は、保健省内にあるCEPS(comité économique des produits de santé、医療製品経済委員会)と企業が交渉することで決まります。CEPSでの価格交渉においては、5段階でつけられるASMR(追加的有用性)に、HASのレビューを活用しています。
企業は新しい医薬品や医療機器について保険償還を希望するときに、費用対効果のデータを提出しなければなりません。対象となるのは、ASMRの評価が I~III(評価の高い方3つ、ASMRがIII以上だとヨーロッパの平均価格より高い価格が設定される可能性がある)を希望するもので、販売開始2年目の年間売り上げが2000万ユーロを上回ると予想された場合です。
2. ドイツ
ドイツでは、2004年にIQWiG(Institute for Quality and Efficiency in Healthcare)が設立され、医薬品の評価を行っています。
制度上は費用対効果も検討されうるものなのですが、現在は実施例はなく、AMNOG(医薬品市場再編法)に基づき早期有用性評価を行うに留まっています。これは新しい医薬品が上市された後、その1年以内にIQWIGが「追加的有用性」を評価するものです。IQWiGでは、比較対照と比べたときの有効性、安全性、QOLなどの観点から追加的有用性があるか、ないかについて評価されます。追加的有用性がある場合はその程度を「大」「中」「小」「定量化困難」と決めています。
ドイツで医薬品の価格は、基本的に企業が自由に設定できます。しかし、この早期有用性評価の結果をもとに保険者(Spik)が交渉を行うことで、価格が引き下げられます。機械的に追加的有用性の程度と引き下げ率が対応しているわけではなく、追加的有用性の程度も大きい方が価格交渉は有利に働くようです。追加的有効性無しの場合は、既存の医薬品類と同等の価格がつけられます。
3. その他の国々
費用対効果の情報は、スウェーデンをはじめとする北欧諸国、アイルランド、オランダ、ポルトガル、ポーランドなどの東欧諸国でも、医薬品を公的保険制度(あるいは公費)で償還するかどうか、医薬品の価格をどのように設定するかという観点で用いられています。また、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなども同様の仕組みを持っています。
韓国では2006年12月に、原則としてすべての医薬品を保険収載する「ネガティブリスト方式」(収載しないものを規定する)から、「ポジティブリスト方式」(収載するものを選別する)に変更されました。ここでも同様に、医薬品を保険収載するための基準として、費用対効果の情報が用いられています。
また、韓国は公的保険を提供する組織が一元化されており、その支払いが適切であるかを審査をするHIRA(Health Insurance Review and Assessment Service、健康保険審査評価院)という組織があります。医薬品を保険収載するかなどは、このHIRAによって評価されています。費用対効果が悪いと判断されると、保険収載されず、公的医療で使用できなくなることがあります。