費用対効果評価の医療制度への活用

日本では医薬品や医療機器に費用対効果評価を導入するため、中医協などで話し合いが続けられきました。その議論の過程を振り返ります。

1. 費用対効果のはじまり

日本では1992年から医薬品を保険収載する際に、薬の価格を算定する資料として費用対効果のデータ提出が認められました(ただし提出は任意)。世界で最も早く活用が進んだ国であるオーストラリアでは、1993年にPBAC(Pharmaceutical Benefits Advisory Committee、医薬品給付諮問委員会)という組織が保険公費償還の可否について、費用対効果の活用を検討し始めています。つまり、日本でも早い段階から取り組みがあったことになります。

しかしながら、日本では費用対効果の活用は進んでいきませんでした。その理由として、費用対効果データの活用方法が制度として位置づけられていなかったことが挙げられます。企業がデータを作成しても、何に使用されるのか、どのようなメリットがあるのか、はっきりしていなかったことがひとつの理由と考えられています。

2. 中医協における議論の進展

しかし、世界的には費用対効果のデータ活用が進みました。イギリスでは1999年にNICEが設立され、意思決定に積極的に活用されるようになっていきました。その他のヨーロッパ諸国でも取り組みが進み、韓国、台湾、タイといったアジア諸国でも活用が進んでいます。

一方で、日本では高齢化や医療技術の進歩によって、公的医療費が増加してきており、限られた資源をいかに効率的に利用するかが重要になってきています。医療の世界においても費用対効果の必要性について理解が進んできた結果、2012年から中医協の下部組織に「費用対効果評価専門部会」が設立され、費用対効果をどのように評価するか、評価結果をどのように活用するかなどの議論が継続的になされてきました。

議論の結果、2016年4月には試行的に費用対効果評価が導入されることになりました。これは、基準を満たした医薬品と医療機器13品目(医薬品7品目、医療機器6品目)について費用対効果を評価し、その結果を価格に反映させようというものです(費用対効果のよくないものは価格の引き下げ、費用も安く効果も大きいものは引き上げ)。2016年、2017年度に企業による分析と再分析を実施、2018年度の検証作業を経て、試行的導入は終了し、実際に医薬品や医療機器の価格が調整されました。この試行的導入の反省点や改善点をふまえて、2019年4月には医薬品や医療機器の価格制度に費用対効果評価が正式に導入されました。

3. 制度化に向けた議論

制度化にあたって、費用対効果評価の活用方法については、試行的導入で実施された「価格の調整」に加え、一部からはイギリスなど諸外国と同様に「費用対効果のよくないものは保険償還しないよう検討すべき」という意見もありました。しかし、2019年度からは試行的導入時と同じく、医薬品や医療機器の価格の調整に活用することとなりました。

具体的には、中医協で指定された医薬品や医療機器の費用対効果を評価し、「類似薬効機能区分比較方式」で価格がついたものについてはその加算分を、「原価計算方式」の場合は営業利益率分の価格を調整します費用対効果がよくなければ引き下げ、費用対効果がよくいくつかの条件を満たせば引き上げ。対象となるのは、類似薬効(機能区分)算定方式で加算のついたもの、あるいは原価計算方式で算定された医薬品・医療機器のうち、ピーク時の年間売り上げ予測額が100億円以上、一部50億円以上のものです。また、売り上げが小さくても価格の高いものは評価対象になる可能性があります。

このような費用対効果評価の制度化により、エビデンスに基づく医療政策(Evidence-Based Health Policy: EBHP)の考え方に基づき、医薬品や医療機器の価格算定をより明確化し、公的医療をより持続可能なものとすることも目指しています。