海外の状況(イギリス)

費用対効果の分析に関心があるのは日本だけではありません。世界の様々な国で医療の費用対効果を検討しています。今回はイギリスの事例をご紹介しましょう。

1. イギリス「NICE」の役割

費用対効果の情報を、医療における意思決定に活用している最も有名な国はイギリスです。イギリスには1999年に設立されたNICEThe National Institute for Health and Care Excellence、国立保健医療研究所)と呼ばれる有名な評価機関があります。

イギリスはNHSNational Health Service、国民保健サービス)という税金でまかなわれる公的医療制度があります。NICEは医薬品や医療機器などの費用対効果を評価していますが、費用対効果がよくないと判断された場合は、NHS(公的医療)での使用が推奨されなくなります。

使用が禁じられてるいるわけではないのですが、NICEで非推奨とされると予算などの関係から実質的に病院などでの使用は難しくなります。あるいは、もとの価格では費用対効果がよくなくても、企業が価格を割引くなどしてNHSに提供し、費用対効果が改善した場合には、その使用が認められる場合もあります。

2. NICEでの評価基準

NICEでの費用対効果の基準は、1QALYあたり約20,000から30,000ポンド(300万円から450万円、1ポンド150円換算)、抗癌剤などの場合は50,000ポンド程度(750万円)とされています。これより医薬品や医療機器の増分費用効果比(ICER)が大きくなる場合は、費用対効果がよくないと判断されることが多いようです。

ただし、基準値を超えたすべての医薬品や医療機器の使用ができなくなるわけではありません。NICEの評価委員会により、費用対効果に加えて、疾患の状況や、健康以外のメリット、あるいは分析の信頼性などを様々なものが考慮され、総合的に意思決定されています。

3. NICEの考え方

費用対効果などを理由に、公的医療で医薬品や医療機器が使用できなくなれば、不満に思う患者さんもいるでしょう。実際に、NICEが使用を推奨しないという決定を下すとマスメディアでも論争になったり、患者さんがデモなどで抗議したり、あるいは企業による訴訟に発展したりすることもあるようです。

もちろん、NICEとしても「新しい治療を使用したい」と切実に願う患者さんがいることは理解しているでしょう。よりよい医療を作っていきたいと考える点では、NICEも同じ目的を共有しているはずです。しかし、一方で下記のようにも考えているようです。

"どれほど費用がかかろうともその生命が危機にある特定の人物を助けようと試みる強力な人間の衝動が存在する。これは、「救助原則(rule of rescue)」として知られている。保健医療のために限られた資源しか存在しない場合、「救助原則」を適用すれば、必要とするケアや治療をそれ以外の人々が受けられなくなることを意味する可能性がある。
 決定を行うときには,匿名かつ彼らの利益を主張する人が必ずしもいるわけではないようなNHSにおける現在や将来の患者のニーズを考慮すべきである。"
(翻訳) 齋藤信也ら. 英国国立保健医療研究所(NICE)における社会的価値判断―NICEガイダンス作成のための諸原則 (第二版)―. 保健医療科学 2013: 62(6);667-78