効果の測定方法

「費用」に続き、「効果」について説明していきます。治療の効果といっても様々なものがあります。費用対効果の分析では「QALY(Quality-adjusted life year)」という指標が用いられます。

1. 治療の効果は「QALY」で計算

費用対効果を計算する際に、「効果」をどのように測定するかは、大きな課題です。

例えば、風邪を引いた場合は「熱が下がるのにかかる日数」が問題でしょうし、癌の治療ならば「再発率」が重要な指標です。糖尿病であれば「血糖値(あるいはHbA1C)の低下」が目標になるはずです。

しかし、このように風邪、癌、糖尿病と、疾患ごとに別々の効果指標で費用対効果を計算すると、結果の解釈が難しくなります。風邪が1日早く直るのに1万円かかる治療と、血糖値を1ポイント下げるのに1万円かかる治療では、ICERが同額であっても費用対効果の程度はよく分かりません。

そこで、様々な疾患に対する共通の効果指標として「QALYQuality-adjusted life year)」が諸外国含めて一般に用いられます。「クオリー」と読み、日本語では「質調整生存年」と訳されます。

2. QALYの計算方法

QALYは「QOLquality of life)」を「生存年数」にかけることで求められます(図1)。QOL値は生活の質を表すもので、0(死亡)から1(完全な健康状態)までの値をとります。例えば、QOL値が0.8の状態で10年間生存すれば0.8×10=8QALYとなります。

QALY1QALY2QALYと数えることができます。QOL値が1の状態で1年間生存したときには、1×1=1QALYとなるので、1QALYは「完全な健康状態で1年間生きたとき」の健康量と考えられます。ですので、先ほどの0.8QALYは、1QALY0.8倍の量になります。

ここで求められる数値は、ただの「生存期間」よりも直感的な感覚により近いものではないでしょうか。同じ1年間を生きるにしても、「自分の思うままにできる元気な状態」と「寝たきりで身動きがとれない状態」では、多くの人は前者の方が望ましいと考えるはずです。単純な生存期間で見ればどちらも1年間ですが、前者は後者よりもQOLの高い状態ですから、治療により得られるQALYの値も大きくなります。

つまり、生存している期間の「質」も同時に反映できるのが、QALYを用いるメリットのひとつになります。

(図1)QALYの概念図
(図1)QALYの概念図

3. QOLをどのように測定するか

QALYにかけ算するQOL値は、測定したい状態の患者さんに対して質問表を配り、それにこたえてもらうことにより調査します。この質問表は、どのような内容のものでもよいわけではなく、QOLを測定できることがきちんと学術的に検討されたものを用いて実施しなければなりません。

費用対効果を計るために最もよく用いれられているのは、5択の質問からなる全5問のアンケート「EQ-5DEuroQOL 5 dimension)」です。これは患者さんから得られた5問の回答をもとに、QOL値を算出します。

ここで重要なのは患者さんのQOLについて、患者さんに直接聞いている点です。医師などの医療関係者が評価を下すと、患者さんの感覚や考えと必ずしも一致しない場合があると言われます。

QOLの考え方は、自分の健康状態について、患者さん自身の評価を費用対効果に反映させるためにも重要なものなのです。